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東京家庭裁判所 昭和39年(家イ)4866号 審判 1965年2月24日

国籍 なし 住所 日野市

申立人 ライアン・清子(仮名)

右法定代理人親権者 山田律子(仮名)

本籍 東京都 住所 申立人に同じ

相手方 山田良(仮名)

主文

相手方は、申立人を認知する。

理由

一、申立人は、主文同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、

(一)  申立人の母山田律子(旧姓秋本)は、昭和二一年九月頃当時日本に進駐していたアメリカ合衆国空軍軍属(飛行機技師)ウイリアム・チャールズ・ライアン(以下、ライアンと称する。)と知り合い、昭和二二年二月一〇日から事実上の夫婦として同人と同棲生活に入り、昭和二九年一二月二一日正式に同人とともに米国大使館に婚姻登録をなし、かつ、同日東京都中央区長に対し、同人との婚姻届出を了したのであるが、同人は帰国命令を受け、昭和三三年四月一八日単身離日のうえ帰米し、アメリカ合衆国カリフォルニア州○○○○一七二〇番地に居住することとなつたため、爾来同人とは事実上離婚状態となり、その後昭和三八年一二月一三日東京家庭裁判所八王子支部の調停により同人と離婚した。

(二)  ところが、右山田律子は、正式に右ライアンと離婚する以前に、昭和三四年一月頃相手方と知り合い、同年四月末頃から事実上の夫婦として相手方と同棲生活に入り、相手方との間に昭和三七年八月二〇日申立人を出生し、その後右ライアンとの離婚手続を終えたので、昭和三九年七月一〇日正式に相手方との婚姻届出を了した。

(三)  右の如く申立人は、真実右山田律子と相手方との間に出生したものであるにかかわらず、申立人の出生当時母である右山田律子と前記ライアンとの間にはなお法律上婚姻が継続していたため、申立人は右山田律子とライアンとの間の嫡出子であるとの推定を受け、母の山田律子が昭和三九年七月九日届出をなし、同日八王子市長によつて受理された申立人の出生届も、申立人が山田律子(当時秋本律子)とライアンとの間の嫡出子として出生したと記載するほかなかつたのである。

(四)  よつて申立人は、相手方の認知をえて、相手方と母山田律子の間の子として戸籍に登載されたく本件申立に及んだというのである。

二、本件につき、昭和四〇年二月二日の調停委員会において、相手方が申立人を認知することにつき当事者間に合意が成立し、その原因についても争いがないので、当裁判所は、記録添付の戸籍謄本、出生届受理証明書、調停調書謄本の各記載、家庭裁判所調査官寺戸由紀子の調査報告書、並びに申立人の法定代理人親権者山田律子および相手方に対する審問等によつて、必要な事実を調査したところ、申立人の主張どおりの事実が認められる。

三、ところで、法例一八条により、子の認知の要件は、その父に関しては認知の当時父の属する国の法律により、その子に関しては認知の当時子の属する国の法律によつてこれを定めるべきであるから、相手方について日本民法によるべきであり、また申立人は国籍を有しないので、申立人についても法例二七条二項によりその住所地法である日本民法によるべきであつて、結局のところ、本件認知の要件は、日本民法によるべきこととなる。日本民法によると、被認知者は嫡出でない子でなければならないから(民法七七九条)、相手方が申立人を認知するためには、申立人が嫡出でない子であることを要する。そして、法例一七条によると、子が嫡出であるか否かは、その出生の当時母の夫の属した国の法律によつてこれを定めることになつているのであるが、本件申立人の出生当時、母である山田律子は、前記認定のとおり、アメリカ合衆国の国籍を有するライアンとの間になお法律上婚姻関係を継続していたのであるから、申立人が嫡出であるか否かは、右ライアンの属したアメリカ合衆国カリフォルニア州の法律によつて定めることになる。カリフォルニア州民法典一九三条によると、婚姻中に生れた一切の子は、嫡出であると推定されるのであるが、同法典一九五条によれば、この嫡出の推定は夫あるいは妻、または夫あるいは妻の子孫もしくは夫婦双方の子孫によつて争いうるのであり、しかも判例上、この推定は子が嫡出であるか否かが問題となる訴訟において、夫が(a)性的不能者であるか、(b)完全に不在で妻と一切の交渉をもちえないか、(c)子が当然懐胎されたに違いない期間中完全に不在であつたか、または(d)全く性的交渉がなかつたことの明白にして十分な証明を与えうるような状況下にあつたことを示す、証拠能力ある十分な証拠で完全に覆えすことができることが認められている(州民対ウツドスン事件29 Cal.App.531 デイジイ対デイジイ事件 50 Cal.App.2d 15 シンダーズ対リユーイス事件 93 Cal.App.2d 90等)。そうだとすると、本件申立人は、一応母山田律子と右ライアンとの間の嫡出子であると推定されるのであるが、申立人は相手方に対し認知を求め、その嫡出子であるか否かが問題となる本件調停において、この推定を争いうるのであり、右ライアンは、完全に不在で母山田律子と一切の交渉をもちえないことは、山田律子および相手方に対する審問の結果によつて明らかであり、したがつて、この推定は完全に覆えされ、申立人は嫡出子でなく、母山田律子が相手方との間に儲けた嫡出子でない子であるといわなければならない。そうだとすると、申立人が相手方に対して認知を求める本件申立は、日本民法によりすべて認知の要件をみたしているので、理由があるというべく、当裁判所は、調停委員松原至大、同鈴木富美子の意見を聴いたうえ、家事審判法二三条に則り、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

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